【練習・試合にて:その4】

 

14)フェイク・演技力も技術?

 ある試合での出来事です。1アウトランナー1・3塁。ピッチャーがセットポジションに入ると、1塁ランナーがゆっくりとスタート。しかしピッチャーからの牽制で1・2塁間に1塁ランナーは挟まれました。

その様子をうかがっていた3塁ランナーがホームへスタート。挟殺プレイをしていた守備側が3塁ランナーの動きに気がつくと、なぜか1塁ランナーが転んでしまいました。守備側はチャンスとばかりに1塁ランナーにタッチ。その間に3塁ランナーはホームインしました。その直後、相手ベンチから「ナイス演技!」と声が上がります。アウトになった1塁ランナーもガッツポーズで答えます。実は、転ける演技も含めて全てサインプレイだったのです。これは感動するプレイでしょうか。野球の本当のすばらしさなのでしょうか。ランナーが挟まれて相手のエラーを誘うことは作戦として考えられます。スポーツにおいて相手の弱点をつくことは当然の行為です。しかし、転ける演技は野球の技術でも力のぶつかり合いでもありません。筆者には、勝利至上主義から生まれた、しかも小学生向けの次元の低いやり方としか思えません。

 スポーツは勝たなければ意味がない、だから勝つためにはルール内なら何をしてもいいと考えている人がいます。野球では「体に近い投球ならワザとデッドボールになれ」というようなものもあります。サッカーでは、ファールぎりぎりのタックルプレイや、ファールをされたフリ(演技)をすることがありますが、過剰な行為は審判によって反則(ファール)を宣言されます。スポーツマンシップでは“正々堂々戦う”ことが唱われますが、実際のプロスポーツでは勝つことが最優先されるため、こうした危険行為や演技もやって当たり前の部分があります。子供たちは、そんなプロスポーツに憧れ、大人の中にはプロを手本に指導することがよくあります。子供の頃からプロ意識を持つはいいことだと考えている方もいますが、筆者は少年スポーツにおいてそういった指導・教育は決して望ましいと思いません。「演技にだまされた方が悪い」と考えている指導者は、野球というスポーツで子供たちに何を伝えたいと考えているのでしょうか。うす汚い社会を生き延びる方法でしょうか。フェアプレーの精神とは何でしょう。スポーツをするの醍醐味は何だったのでしょう。オリンピックも含めてプロスポーツの世界は決してフェアな精神が成り立っているとは云えません。しかし、少年期のスポーツとは、また本来スポーツが私たちを魅了しているものは何なのか考えてみて欲しいのです。指導者・コーチの方には、スポーツをする意味を、指導する意味を心の中で今一度問いただして欲しいと思います。

15)いろんなスポーツをやろう!

 小学生の子供たちの一週間はとても忙しいです。週末の野球はもちろん、学習塾や様々な習い事、水泳や空手など他のスポーツを学びに通っている子が数多くいます。指導者の中には、野球だけに集中させることを勧める方もいます。中には水泳は野球をやる上で肩や肘に良くないといって辞めさせる場合もあると聞きます。筆者は、肩や肘に良くないのは正しい体の使い方をしていないからであって、そのスポーツのせいにするのは間違いだと思います。子供に何を学ばせるか、何をさせるかは子供自身とご家族の判断が全てだと思います。くれぐれも指導者・コーチは偏った判断や意見をしないようにするべきでしょう。

 筆者は、子供はいろんなスポーツをしたほうが良いと考えています。どのスポーツに自分の心が惹かれるのか子供自身が選択できることは良いことです。いろんな指導者と出会えることも選択肢になるでしょう。そして何よりも、いろんな体の動かし方を体感できることは、子供の体に神経や筋肉などいろんな成長を促してくれる可能性があると思います。野球ではなかなか鍛えられない神経や筋肉も、他の運動で刺激を与えることによって、野球の動きを補強してくれることも考えられます。他のスポーツでのケガを嫌がる指導者もいますが、野球だってケガをします。「野球以外でケガをするなんて大馬鹿者だ」なんて小学生にいう指導者もいます。ケガのリスクなんてどこにでもあります。プロ選手ではないのですから、野球主体・自分中心で何でも考える方が大馬鹿者ではないでしょうか。

 アメリカでは、小さい時は多くのタイプのスポーツをさせ、成長に伴ってその種目を減らしていくそうです。大学でも野球とアメリカンフットボールの“二足のわらじ”も不思議なことではありません。野球に集中することも選択肢ですが、野球以外にもあることを知ることも重要です。実際、生涯野球だけをする人は殆どいないでしょう。

 プロ野球の世界でも、オフにはいろんなスポーツをする選手がいます。山登りやスキーは下半身の強化に、テニスは肘・肩の強化になります。水泳はウェイトコントロールや体の筋肉バランスを整えるためにも利用されます。中には格闘技や陸上競技のトレーニングをする選手もいます。ただしプロはあくまでも、野球のためのトレーニングという理由で様々なスポーツに取り組んでいます。もちろん趣味としてゴルフなどを楽しむこともあります。

 できれば指導者・コーチは、他の持つスポーツの特長を学び、野球の指導にも活かしていただければと思います。広い視野があれば、可能性の固まりである子供たちにきっと役立つはずです。将来の決まっていない子供たちには、もっと自由に、いろんなスポーツの素晴らしさに出会って欲しいと思います。

13)ケガで練習が出来ない時

 人間生きていれば、ケガはするもの。ましてや習慣的に運動をしているならケガは多いものです。避けて通れるケガならば予防をしますが、起こってしまったケガはきちんと向き合い乗り越えて行かなければなりません。ケガをしたら大切なのは休養と治療、またリハビリが必要な場合もあります。

 選手・子供がケガをして練習を休むという時は、まずケガの理由・状態をご家族に確認します。不注意か、いじめなど心も問題はないか、身体的な理由がないか、もしかして野球が原因なのか。その理由によって指導する側の方針にも影響があるかもしれません。身体的な理由というのは、まれに骨格など先天的な理由で痛みがでるケースなどのことです。野球が原因となる突き指やねんざをはじめケガはいろいろありますが、やはり注意すべきなのは、野球肘と野球肩、膝の痛みを伴うオスグッド病などでしょう。なぜならこれらは予防や初期での注意が可能だからです。とりあえず、ここでは個々のケガの内容については省略させてもらいます。

 ケガの理由に次いでケガの状態を確認します。全く練習が出来ないのか、それとも何かできるのか、ケガをした本人にとってどうすることが一番良いのか検討し、ご家族の方と相談します。もちろん、選手がケガをした時はまず休ませることが第一の対処です。しかし、ケガが長引いて練習が出来ない場合は別の対処を考えてやらなければなりません。一番つらいのは、好きな野球が出来ない子供たちです。もちろんケガという苦難を成り越えていくことも大切な経験かもしれませんが、指導者は「治るまでとにかく休んでいなさい」「自分でできることをやっていなさい」で果たしてよいものでしょうか。

 筆者は、ケガした子供とじっくり話し合うことが必要だと考えています。『今しなければならないことは何か?』『今できることは何か?』『復帰した時、さらなるレベルアップが期待できることは何か?』などを子供といっしょに話し合い、実行していくことが良いと思います。メンタル面でいうと ①現状を理解すること。②将来への希望・期待を持つこと。そして③指導者・コーチが子供自身の事をしっかり見つめ考えていることを感じさせてやること、これら三点に心がけます。どうしてもケガをした子供は見学だけになったり、とりあえず球拾いをしたり、それか単に休むだけになる場合もあります。コーチもケガをした子にまで手が回らなくなりがちです。子供は練習がおもしろくなくなったりチームから疎外感を感じるたりすると、野球への興味・意欲が薄れていき、他にやりたいことを探し始めます。別に他にやりたいことを見つけ、新たな意欲を持つことはよいでしょう。でも、ケガのために何か(野球)をあきらめたという気持ちは心に少なからず傷を残します。

 ケガをしても体が動かせるようなら、ケガのレベル・内容によって、『今できること』『将来役立つこと』『弱点の克服』といったことをテーマに、特別メニューを組んでやることをオススメします。その実施にあたっては、子供としっかり話し合い、前述したメンタル面をしっかりフォローしながら行います。中には特別ニューということ自体に拒絶反応を起こす子もいます。特別メニューの具体的な方法は省略しますが、肘・肩の故障を想定した場合は、ランニングメニューを中心にした下半身トレーニング(肘に故障を持つ場合、肘に力みのはいる子供は注意)、ショートバウンドの捕球などのグラブさばきトレーニング、外野フライのキャッチングトレーニング、平衡感覚を鍛えるバランストレーニングなどがあります。バッティングについては、肘・肩を痛めている場合は、ケガのレベルによりますが避けた方がよい場合があります。下肢のケガ・故障などの場合は、肘・肩まわりのインナーマッスルのトレーニングがあげられます。

 指導者・コーチの皆さんには、まず野球で予防できるケガをさせないようしていただき、子供たちが野球を長く楽しめように、ケガの克服を手助けしてやって欲しいと思います。彼らの人生ははじまったばかりです。

次のページへzhi_dao_lun04a.html
zhi_dao_lun04a.html
前のページへzhi_dao_lun03.html
zhi_dao_lun03.html